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タイトル『問題な日本語』〜どこがおかしい?何がおかしい?〜
著者北原保雄 発行所大修館書店 発行日第14刷2005年3月10日 定価800円+税

 「いま、大変売れているらしい本のようだ」と「いま、とても売れている本らしい」
と使い方としては、どちらがいいだろうか。最初に前の文を書こうとして、まてよ、別の言い方があるはずだと考えて書いたのが後の文である。『問題な日本語』はこんなことを考えさせてくれる本で、特に内容が濃い割には安いお値段でうれしい。そして、あまり難解な書き方になっていないので、読みやすい。若者ことばをただ批判しているのではなく、あくまで使われてきた経過などをわかりやすく説明しており、そこにプロとしてのまなざしが感じられ、それがこの本の価値であろう。
 ニヤッと、あるいはハッとさせられる言葉の使い方の例をいくつか紹介しよう。
(質問のところだけが引用部分です)
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質問 「猫に餌をあげる」のような「あげる」は正しい使い方なのでしょうか。
・・・「花に水をあげる」「猫に餌をあげる」と続いて、「ハイ、お父さん、今、ゴハンあげますね」と四コマ漫画がある。答えは買って読んでね。
質問 最近「耳ざわりのよい音楽」というような言い方をよく聞きますが、「耳ざわり」は、本来不快なことを表すのではないでしょうか。
・・・現在のところ、このような使い方は誤用のようです。
質問 最近「こと」を漢字「事」と書く人が増えているようですが、、適切な表記といえるでしょうか。
・・・私のところの学生も結構、多用しています。
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 最初、この本を新聞の紹介欄で見たときに、「問題な日本語」のタイトルのなかの「な」という言葉の使い方に少し違和感を持ったのだが、なぜなのか自分でもはっきりしないのでモヤモヤしていた。読み終えて、これに似たような使い方は私たちのまわりに随分あることに気づかされた。
 この本に刺激されて、以前買っておいた『日本語練習帳』(大野晋 著 岩波書店)を読もうと本棚を探したが見つからない。また買うかな。また、北原さんが編者である『明鏡国語辞典』も手元に置きたくなった。(2005年4月17日)





タイトル
『言葉の力』〜生かそう日本語の底力〜 
文藝春秋 特別版(3月臨時増刊号) 発行所 文藝春秋 定価1000円

仕事柄、コミュニケーションとか表現とか言葉について研究しているので気になって買ったのだが、買って正解、私にとってはなかなかの一冊となった。
本の構成はいくつかのテーマに分かれている。順に書き記してみよう。
・言葉について
・言葉といのち
・日本語を探検する
・日本語を点検する
・言葉をみがく
・言葉の力
これらを95人の著名人が言葉の使い方についてご意見を述べている。
そのなかで印象に残ったところを次に紹介しよう。

(中西 進さん)
中西さんが言葉についてのテーマのなかで、「名をよぶことが、通常の人間関係の中で果たす役割は、絶大である」と言っている。これは実感である。名をよぶことは相手の存在に敬意を払うことにつながる基本的なことではないかと思う。私もできるかぎり相手の名前を呼ぶように心がけている。
(今井 邦彦さん)
今井さんは「日本語は本当に曖昧か?」の中で、アクセントの乱れを指摘していた。例えば、「寒い」は「サムイ」のムにアクセントがある。だが、「寒くなる」は「サムクナル」とサにアクセントがあるのであって、ムにあるのではないという。日頃、アクセントにあまり注意を向けていない私としては、いかにいいかげんなアクセントを使っていることに気づき、ハッとした。
(飯田 朝子さん)
飯田さんによると、若い人の間で年齢の差を数えるのに、「ひとつ上」とか言わないで、「一個上」という人が増えているらしい。
(外山 滋比古さん)
「悪いことば・よいことば」の中で「人間にとって、もっともうれしいのは、自分をほめ、たたえてくれることばである」といっている。


言葉の使い方に意識が向くと、面白いことを発見することができる。朝のラジオで話している著名なコンサルタントの先生は、語尾に必ずといっていいほど、「・・・ですね」と「ね」をつける。たぶんこのような癖があることを本人は知らない。(コーチングを受けるとわかるのだが・・・)

最後のページに「言葉の力」をつける本が紹介されていて面白い。そのなかで、いま、ベストセラーになっているらしい『問題な日本語』は早く買って読みたい本の一つである。(2005年4月10日)


タイトル『脱フリーター社会』〜大人たちにできること〜

著者橋本俊詔 発行所東洋経済新報社 発行日2004年12月2日 定価(本体1500円+税)

 著者は京都大学大学院の経済学の教授です。この本の特色は経済学者の視点と若者の視点を比較しながら考察できる点です。ここでいう若者とは橋本教授のゼミの学生です。
 私たちは完全失業率の統計が出るときに、つい全体の数値として5%を切ったとか上回ったとかに注目していないでしょうか。この背景にはリストラによる中高年の失業問題があるからでしょう。しかし、現実は若者の失業率が圧倒的に高いのです。また、パートアルバイト、派遣労働者などいわゆる非正規社員の数は増加の一途という状況で、日本の将来を担う若者の雇用は深刻です。
 著者は世間一般のフリーターに対するイメージを「自由気ままに今を楽しむ近頃の若者」とし、その受けとめ方に警鐘を鳴らしています。
 フリーター社会になっている要因は、企業と若者のどちらかだということを考えるのは本質的な問題ではないはずです。いままさにフリーター問題に直面している若者はもちろん、これから社会に出ようとしている中高校生や大学生、さらにその親にも読んでいただきたい本だと思います。もちろん、人件費を労働コストとしてとらえがちな企業の方にも是非読んでいただきたいと思います。

 本の構成は次のようになっています。
第一部若者のフリーター、失業問題を解決するには(1章若者は働くということをどう見ているか 2章決定を延ばす若者の心理 3章階層分化と性別の差 4章若者の労働市場と企業・政府の役割など)
第二部フリーターの現状と若者の主張(7章フリーターとフリーターを取り巻く環境 8章フリーター問題に対する一般的な見方など)
終章脱フリーター社会へ向けての政策提言
(2005年2月18日)


音楽コンサートのお知らせ
今回は、トムスキャピンの木村さんから、大人のための音楽イベントとして、カントリー・コンサートの案内を依頼されましたので、喜んでここでご紹介します。

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LIVE GOES ON ~銀座ナイト〜
東京グランド・オール・オープリー・リユニオン
TOKYO GRAND OLE OPRY REUNION
12.13(月)ヤクルトホール
★出演★ ムッシュかまやつ / トミ藤山 / マイク眞木
麻田浩&His Muddy Greeves
スペシャルゲスト:金子洋明 

主催:ニッポン放送
チケットぴあ(P-code 186-798)ローソンチケット(L-code 34179)
Open 18:00/Start 18:30 全席指定\3,150
http://www.lifegoeson-p.com/

僕が初めて東京グランド・オール・オープリーに行ったのは多分高校生の時だから,1960年代の初めだったと思う。今のニッポン放送の横にあったビデオホールに当時の日本のカントリー&ウエスタンの人気歌手、グループが勢揃いして、コンサートが行われていた。僕ら高校生はおしゃれをして集まってくる大人(といっても彼らは大学生や若い社会人だったと思うが)のお客の中に混じって、小さくなってそして、胸を高鳴らせて、まぶしいステージを見つめていた。今の若者達に大人達へのあこがれはあるのだろうか。もし無いとしたら、今の我々がかっこ良い、あこがれの大人でないからなのではないだろうか?我々が若者が憧れる様な、大人の楽しみを持っていないからなのではないだろうか...ということで昔の僕が憧れた東京・グランド・オール・オープリーを再現します。出来れば思い切りおしゃれして、12月13日にヤクルト・ホールに来てください。昔僕らが憧れた様な大人に変身して。
麻田浩/プロデューサー

公演に関するお問合せは.....トムスキャビン 担当:木村
〒160-0021 新宿区歌舞伎町2-3-21明治通りビル301 Tel: 03-5292-5577
Fax: 03-5292-5552 e-Mail: audrey@sister.co.jp

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カントリーと言えば、私はなにはさておきジョニーキャッシュが好きです。
彼のLPアルバムは今、聴いてもワクワクします。もちろん、ジョンデンバーも大好きです。(2004年11月24日)


タイトル『生きがいについて』
著者神谷 美恵子 発行所みすず書房 発行日1980年6月25日 定価1100円

 
今週、学生に人生、就職、働く意味、生きがいなどについて話すことになり、話をまとめる都合上、私自身もう一度「生きがいに」ついて知りたくなり、以前から気になっていた著者のこの本に出会いました。
 著者は、まず生きがいという言葉の使い方はふた通りあると指摘しています。一つは、「この子は私の生きがいです」などと、生きがいの源泉、つまり対象について使うとき。二つ目は、生きがいを感じている精神状態を意味するとき。つまり真の喜びをもたらすものとしての生きがい感についてです。この本では後者のことに焦点をあてて説明されています。
 どういう人がいちばん生きがい感を感じるかということについて、次のように述べています。
 「自己の生存目標をはっきりと自覚し、自分の生きている必要を確信し、その目標にむかって全力をそそいで歩いているひと。いいかえれば使命感に生きるひと」また、「生きがいを感じている人は他人に対してうらみやねたみを感じにくく寛容でありやすい」ともありました。
 生きがい感は幸福感の一種ではあるけれども、違いがあるとして説明していますがとてもわかりやすく納得しました。
 私たちが生きがいを持ちたいとか持つときの心は、自発性と強く関連があるそうです。このことから、生きがいは個々ひとり一人違いが当然あっていいことですし、生きがいに、良い生きがいも悪い生きがいもないことに気づかされます。仕事にしろ、趣味にしろ、生き生きと楽しく、面白く感じて、さらにまわりの人に喜んでもらえたら、生きがい感、生きている張り合いは持てるような気がします。
 この本の発行は二十四年前ですが、いささかも古さを感じませんでした。この本の価値は、著者の哲学の真髄に触れながら、自分の生き方について静かに思索したくなるところにあります。また、テーマは重いものを扱いながら、肩に力を入れないで読むことができ、わかりやすいのには意外の感じもし、驚いています。
(2004年11月21日)

補足:私のこのページ(音楽・本情報)で2001年8月にも関連図書の情報(『生きがいの社会学』が掲載(過去ログにあり)されていますのでご覧ください。


タイトル 『愛語よく廻天の力あり』 副題〜校長室からのメッセージ〜
 
著者 土屋秀宇 発行所 登龍館 発行日 平成15年9月三版 定価1748+税

 この夏のある日、ある教育関係の会社の主催で、幼稚園の先生方を対象にした人間教育のセミナーがあり、参加してきました。そこで講演なさった土屋氏のお話に感動し、会場でこの本を買い求めました。
 土屋氏は現在、日本漢字教育振興協曾事務局長としてご活躍なさっています。この本は土屋氏が船橋市立の小学校に校長として任に就いていたとき、家庭向けに発信していた「校長だより」がもとになっています。その「校長だより」は「教育の原点は家庭にあり」との思いで月に一度学校の様子などを書きとめたものを家庭にお届けしていたのです。
「美しい言葉は美しい心から生まれる」という信念のもと、めざす学校像の一つに「言葉を大切にする学校」というものを掲げられています。
 この本のなかで私が特に好きな項目の概要をご紹介しましょう。
 まず「子供を生かす言葉とダメにする言葉と」です。小学校三年生の男の子が一学期の体育で「5」を取ったのだそうです。彼は意気揚々と帰宅したそうです。そして、お母さんに声高らかにそのことを言ったそうです。国語が「2」算数が「2」と並ぶ中でその「5」は光っていたのでした。しかし、お母さんはあまり喜ばず、あげくの果てに「体育が5でも算数が2ではねぇ」と言ったのだそうです。お母さんは子供を承認してあげなかったのです。さて、みなさんならばこのときの子供を生かす言葉としてどんな言葉を思い起こしますか?
 次に、挨拶の項目のところで、帰国子女である中学一年生男子の作文が紹介されています。
    ありがとうと言う人は 人を信ずることのできる人です。
    ありがとうと言う人は 人を愛することのできる人です。
    ありがとうと言う人は 人にありがとうと言われる人なのです

この本の中から「箸置きを使う」ことと、セミナーでの他の講演者の話の中から「靴を前に揃えて玄関を上がる」ということを習慣づけるようになりました。人生五十有余年になって、お恥ずかしいですが、やってみるとなかなか気持ちが落ち着く感じや、周りに感謝する気持ちが強くなるような不思議な感じを持ちました。
いつも傍においておきたい本だと思います。(2004年10月26日)



タイトル『一回性の人生』

著者 梁 石日(ヤン ソギル) 発行所 講談社 発行 2004年2月 定価 本体1600円+税

 副題に「人は絶望の果てへ旅立つこともある。だが、それは人生の通過点にすぎない」とあります。骨太に生きている著者の語り下ろしなので読みやすい本です。

 章立てをご紹介しましょう。
第一章 時代の不安・こころの不安
     ・フリーターに未来はない
     ・女が男社会を凌駕する
     ・言い訳せずに自分と向き合え など
第二章 人生を翻弄する金・モノ・人
     ・金は人間を翻弄する
     ・モノとこころが逆転した など
第三章 生き抜く力・自己肯定力
     ・人生は必ず対価を払う
     ・不安から絶望へ それでも可能性は残されている など
第四章 運命にくさびを打つ
     ・与えられた時間はたかだか八十年なのだ
     ・自らの運命にくさびを打て などである。

第四章「運命にくさびを打つ」に以下のことが書かれています。
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人生は明日はどうなるかわからない。大事なのはいまこのときなのだ。一秒経てばもう過去であり、一秒先は未来である。だから、過去と未来をつないでいるいまという瞬間をどう生きるかが大事なことになる。十年、二十年先を考えて生きるのも大切だが、いまを生き抜かないと十年、二十年先はありえない。いまという時間は過去の膨大な時間の積み重ねであり、未来もいままでの膨大な時間の集積の結果である。
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私はこの本を読んで著者からのメッセージを次のように受け止めました。
「一回しかない人生だから、自分で自分を縛っている常識や思い込みに気づき、それを捨ててみる、窮屈な心からもっと自分を解放せよ」と。
 このことはコーチングでもクライアントに使います。例えば、 コーチングでクライアントに「未完了の完了」を紹介することがあります。これは、「いま、目標に向かって行動するエネルギーを、過去のことに使わない」「過去のことでいまも引きずっていることをいったん終了させること」なのです。未来に対しても同じことです。人間、明日の命さえわからないのに、いたずらに十年も先のことを心配していてもしょうがないことです。
 また、この本の中に、以前私のコラムで紹介した「心のノート」に関することが偶然にも書かれていて驚きました(170ページ)。(2004年10月9日)



タイトル『生きることの意味』
著者高史明(こうさみよん) 発行所筑摩書房 1974年12月 定価不明

 
図書館で偶然このタイトルが目にとまり、はしがきを読んでみて全部読んでみようと思い借りてきたものです。著者の高さんのお父さんは1910年の日韓併合の後に、日本に来たのだそうです。この本は、二つの祖国の間にあって自らの存在意義をいつも確認しつづけて来ざるを得なかった高さんの少年時代の生き方であり、世界の人々に人間としてのやさしさの発露の大切さを訴えたものです。

 高さんの哲学といってもいい文章を以下に紹介します。
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はじめに〜かけがいのない人生〜より 
困難にぶつかったとき、人はそれを両親や友人たちに相談することができます。両親や友人たちは、そんなとき、きっととても親切に助けてくれるはずです。でも、その困難をほんとうに解決することができるのは、困難にぶつかった本人なのです。・・・・・わたしたちのかけがいのない人生とは、同じようにかけがいのない人生を生きている他の無数の人々の人生と、さまざまな形でしっかりと結びつけられているからこそ、自分だけの人生になりうるのだといえるのです。

父と兄に見守られて〜どろぼうにはいられる〜より
 それにしても人間には、なんと不思議な力が備わっているのでしょう。わたしは、人間の笑いの能力を考えるのです。なるほど、人間の世界には、人間でなければ引き起こすことのできない悲惨な、さまざまな出来事が起きます。しかし、人間にはまた、どんなに苦しい生活の中でも、笑うことのできる能力があるのです。
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 そして圧巻はむすびにあります。
この本は、どんな環境にあっても、自らの生きる力を信じ、そして人を信じる、いわば人間賛歌の本です。いま生きることに苦しさを感じている人に是非読んで欲しいと願っています。読み終わって、この本が発行された1974年と今日の30年間の月日の流れの速さを感じつつも、古めかしい感覚はなく、むしろいまの時代に警鐘を鳴らす新しさを覚えるのです。やはり言葉の力は偉大です。
 返却期限票に借りた形跡はなかったのですが、貴重な本に出会えたことに感謝しています。(2004年9月4日)


タイトル『絵本の視覚表現』
 
著者 中川 素子 今井 良朗 笹本 純
発行者 日本エディタースクール出版部 発行 2001年12月定価 本体1900円+税

 はじめにのページで著者の中川さんは「絵本には描かれた時空間の中に、絵本を見た人の時空間を吸収し、混ぜ合わせてしまう不思議な力があるようです」と述べています。絵本の魅力を一言で語ったその表現力に参りました。私はここ数年前から絵本の持つ力をコミュニケーション力の側面から注目し、絵本に興味を抱き続けています。絵本は子どものためだけではなく、おとなにも楽しめる表現方法の一つだと思うのです。考えや伝えたいことを要約して、本質を観る大切さを教えてくれたり、想像することの楽しさを教えてくれます。そして、いま生きているなかでの不安や苦しみ、感謝などの気持ちを振り返らせてくれる時間を与えてくれます。自分の中のもう一人の自分と対話しつつ、未来への生きる力の滋養となってくれます。もっともっとおとなが楽しめる内容の絵本が出版されることを期待しています。
 構成は著者の三人が以下のように分担しています。
「絵本の可能性」を今井さん、「絵本の方法」を笹本さん、「絵本の力」を中川さんとなっています。「絵本の方法」のなかで、画面展開の実際として『ノンタン!サンタクロースだよ』が紹介されていました。このノンタンシリーズは長女が子どものころ買ってやった絵本でとても懐かしかったです。早速、現物の絵本を本棚から取り出して、笹本さんの解説を読みながら観ていると、子どももおとなも楽しめる要素があることがわかり、あらためて絵本のもつ力に驚かれました。(2004年8月2日)



タイトル『赤ちゃんと脳科学』
著者 小西行郎(ゆくお)  発行所 集英社 発行日2003年5月 定価 本体640円+税

 最近、子どもへのテレビの影響が新聞報道で話題になりました。私は、日頃からコミュニケーション・スキルに関心を寄せています。テレビとコミュニケーションの関係について、もう少し考えてみたいと思っていたところ、たまたま本屋さんでこの本に巡り合いました。
 著者によると、育児におけるテレビの弊害について、二つ挙げています。一つは、てんかんや視力低下など健康的被害。二つ目は、「言葉が遅い」「目線を合わせない」「他人から与えられたことしかできない」などの情緒面の変化、です。
 また、子育てについても、「子どもを育てる」という意識が強すぎるので、「子どもが育つ」ということに注意を向けるべきと提言しています。子どもへの向き合い方として次のように述べています。

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  子どもを叱ることはいくらでもできます。観察などしなくても自分の基準に
 合わなければ感情一つで怒ればいいからです。しかし、誉めるのは、相手
 を見て、きちんと「観察」していなければできません。ですから、「見守る」こ
 とが重要なのです。
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 いま、子どもたちを取り巻く環境変化もあり、子どもたちがストレスをためていると言われています。おとなが子どもたちのためと思って、言ったり、行っていることが子どもたちに圧力を掛けていないでしょうか。私たちおとなでさえ、人から努力を要請されることは重圧に感じます。
 著者の赤ちゃん観の一つに「赤ちゃんも、一人の人間としてその存在を尊重すべきである」はとても含蓄のある言葉だと思います。 
 タイトルを見ると「科学」という文字があるので、とっつきにくいかも知れませんが、中身は分りやすく書かれていて、読みやすいと思います。これから結婚する若い男女に、現在育児の真っ最中の人に、そして子どもの教育にかかわっている人に是非オススメの一冊です。(2004年7月4日)



タイトル『EQこころの鍛え方』
著者 高山 直  発行所 東洋経済新報社 2004年4月 価格 本体1600円+税

IQは聞いたことがあるけどEQは知らないなど、あまりなじみのない言葉かもしれません。
Emotional Quotientの略です。1990年アメリカのメイヤー博士が提唱した理論です。
博士はEQの定義として次のように解説しています。
(1)EQとは、自らの感情の状態を知覚する能力
(2)EQとは、思考の助けとなるよう感情を把握し、自ら感情を生み出す能力
(3)EQとは、他者の感情の状態や、感情に関する知識を理解する能力
(4)EQとは、感情面や知的側面での成長を促すために、感情を調整する能力
自分の感情いかんでものごとの判断や行動に影響を与えます。この本は、自分の感情をどのようにコントロールしているか振り返ってみるきっかけになります。
IQが遺伝的な要素が多いのに対し、EQは学習や訓練でその能力を伸ばすことができるようです。

このEQ理論はコーチングにも活用されています。その意味でEQ理論とコーチング技術は親戚みたいなものです。

先週、学生への就職セミナーは「自己分析」がテーマでした。そこで、コミュニケーション能力を高めるために、まず笑顔で自分のほうから挨拶してみようと提案しました。
行動を変える中で、わかることが多く、意識が変わるのです。面白いから笑うのではなく、笑うから面白く、楽しくなるのです。最近、新卒採用の適性試験でこのEQを採りいれてる企業も現れています。

日頃、イライラしている自分がいやだなぁと思っている方、一度読んでみてはいかがですか。(2004年5月24日)


タイトル『教育には何ができないか』

広田照幸 東京大学大学院助教授 春秋社 2003年2月本体2300円+税

 著者は序論において、教育ができることには限界があるし、やるべきことについて限界を設定すべきとして、以下の三つを主張している。
  1.教育には「できること」と「できないこと」があり、それを区別する
  2.教育における「できること」の中には、「してよいこと」と「すべきでないこと」が含
    まれており、それを区別するべき
  3.そうした区別は、歴史や空間を超えた「普遍的」公準から導き出されるべきも
    のではなく、現実の社会のリアルな認識と、これからの社会をどう選ぶかの選
    択肢とによって、線引きがなされるべき
 
 この主張の背景として、日本人のひとり一人の自立性や価値観の多様性を認めるべきであるとの認識がある。そのために、教育ですべてできるものではないことを前提として、家族関係などを見直そうと述べている。
 社会も、家族関係の成り立ちも昔と違っているのに、「今の時代は親が子どもを管理しすぎる・・・・・」などの声に対して、疑問を呈している。確かに、情報化一つとってもその技術の進展によって、私たちが入手(入る)する情報はシャワーのごとく大量である。そのため、かえって不安に陥ったりすることもある。昔なかったストレスといってもいいかも知れない。便利なこととか、効率がよいとかは、一方ではさまざまなひずみを生みかねない。そういう社会に生きる私たちは、心を平穏に保つためには、あまり完璧を求めすぎず、まずまずでよしとする受け取り方も必要であろう。
 教師にも、できることの限界があることを認めようではないかとのメッセージを発信している。そのなかで、家庭と学校との関わりをお互いに試行錯誤することが問われるのである。
子育てのことに関心のある方もぜひ読んで欲しい一冊である。(2004年3月3日)


タイトル『「不自由」論〜「何でも自己決定」の限界〜』
著者 金沢大学法学部助教授仲正昌樹 発行ちくま新書2003年9月10日

 この本のタイトルをみるとなにやらとても難解な感じがするかも知れません。確かに、ちょっと固めの本です。ところが、書かれている内容は、読み方によっては、いろいろなテーマに興味ある人にとっても有益な示唆を与えてくれる本です。
 例えば、「子育て」というテーマに取り組んでいる人にも参考になるし、「学校教育」に関心のある人にとっても参考になると思います。また、「自分には自由がない」と窮屈に感じている人にもお奨めです。
 著者は、まず「人間性の本質は多元性にある」と主張しています。そして、人はなにか自己決定するときに、「自分がどういう状況に置かれているのか分からなければ、何を自己決定していいのか自体が、分からない」とも述べています。更に、強いられている「自由」「主体」に気づこうと呼びかけています。
 この本を読んで、「強いられている自由」とか「強いられている主体」とかは、本人自身が合点していれば、どちらでもいいのではないかと感じました。つまり、時には、「強いられている」と感じている自分も自分、そして、「自分が進んで選んでいる」と感じている自分も自分であるでいいのではないかということです。
そして、思うことは、自由情報過多の現代の暮らしのなかで、いたずらに不安がったりしないで、そして完璧を求めず、良くも悪くも自分を頼みに、自分の知的好奇心を動機にして、前へ前へ進みたいと、改めて感じました。(2004年2月11日)



タイトル『バカの壁』

著者養老孟司 発行新潮新書2003年4月 定価680円+税

昨年、ようやく買い求め読んでみました。ベストセラーとして話題になっていたこともありましたが、なにより養老さんのファンでもあったので、今度はどのようなメッセージを発信しているのだろうかというのが買い求めた動機でした。
この本の内容の核心をあらわす言葉が「まえがき」に書かれていますので紹介します。

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 あるていど歳をとれば、人にはわからないことがあると思うのは
、当然のことです。しかし、若いうちは可能性がありますから、自
分にはわからないかどうか、それがわからない。だからいろいろ悩
むわけです。そのときに「バカの壁」はだれにでもあるのだという
ことを思い出してもらえば、ひよっとすると気が楽になって、逆に
わかるようになるかもしれません。そのわかり方は、世間の人が正
解というのと、違うわかり方かもしれないけれど、もともと問題に
はさまざまな解答があり得るのです。そうした複数の解を認める社
会が私が考える住みよい社会です。でも、多くの人は、反対に考え
ているようですね。ほとんどの人の意見が一致している社会がいい
社会だ、と。
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書かれている内容が日常の暮らしを題材にしてあり、また平易な書き方になっているせいかとても読みやすい本です。
不安の世の中に暮らしていると、つい人と比べたりして、必要以上に自分にプレッシャーをかけている人も多いと思います。そう感じている人に是非お奨めします。また、日頃、学生に「正解はひとつでないと落ち着かない」気分を感じている私としては、若い人に読んでもらいたいと思います。もう一方、私自身も「バカの壁」に気づかず、まわりの人に法則的なものを押し付けていないか日々の言動に気をつけたいと思いました。
(2004年1月25日)




タイトル『サウンド オブ ミュージック』
 今日、制作40周年記念のニュープリント・デジタルリマスターバージョンのサウンド オブ ミュージックを観てきた。映画館はテアトル銀座で試写会の招待状を戴いたので妻と観てきた。1965年のアカデミー賞受賞の名画である。
 前の会社に入社した頃は、このアルバムが何年にもわたって売れていたので倉庫から注文品として毎日ピッキングしたものである。確か、レコードの規格番号はSX55だったと思う。RCAレコードからの発売だ。ジャケット写真まで鮮明に覚えているのに映画を観たのは今回がはじめてである。当時、ミュージカルというものに関心がなかったせいかなと思う。
私の記憶によれば、この映画の影響でジュリーアンドリュースの髪型が流行した。
12月30日から1月3日までテアトル銀座でお正月特別先行上映される。(2003年12月14日)

 
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